キャリアカウンセリングにおいて「問題解決」を目指してはいけないのか、それとも「問題解決」を目指すのか
キャリアカウンセリングについて、その目的についての言及が人によって違い、混乱を感じることはありませんでしょうか?キャリアコンサルタントの発言も人によって言うことが結構違うように感じます。
代表的なこととして、「問題解決」に対する捉え方があります。ある人は「問題解決」をしようとしてはいけないと言い、またある人は「問題解決」をしないといけないと言います。
キャリアコンサルタントの国家試験の運営している団体は2つあります。キャリアコンサルティング協議会とキャリア開発協会の2つです。この2つの団体の大事にしている考え方も異なっているように感じられます。
それにより、どういった環境でキャリアカウンセリングについて学習したかによって、考え方が異なるという状況を生じさせてしまっているように思います。
本日は、キャリアカウンセリングの目的を考えていきながら、「キャリアカウンセリング」とは何かというものを、お読みいただく方の中で少し整理できるようなことを書いていきたいと思います。
キャリアカウンセリングの目的は、「行動変容」か「人格変容」か
「行動変容」とは、クライエントの行動を変化させることです。これには、2種類あります。
クライエントの直面する問題解決につながる行動変容とクライエントの成長を促す行動変容です。キャリアコンサルティング協議会の考え方は、相対的にこちらに向いているように感じます。つまり「問題解決」を志向する考え方ですね。
キャリアカウンセリングにおいて、問題解決を志向してはいけないという考え方もあります。こういった考え方は、キャリアカウンセリングの目的は、「人格変容」であるという考えに基づいていると考えられます。
「人格変容」は、クライエントのパーソナリティを変化させることです。なんか「行動変容」より、本質的、抜本的な感じがしませんか?キャリア開発協会の考え方は、相対的にこちらに向いているように感じます。
キャリアカウンセリングの対象者をもとに、考える
キャリアカウンセリングの対象者は、パーソナリティ自体に問題を抱えている人(メンタルヘルスに問題を抱えている人)ではありません。メンタルヘルスを患っている方は、リファーの対象になりますよね。(心理療法の対象となります)
キャリアカウンセリングの対象者は、パーソナリティ自体に問題を抱えていない人です。いたってメンタル的には健常な方です。
ただ、そういった方でも、様々な転機などに直面して、問題を抱えることがあります。そういった方がキャリアカウンセリングの主な対象者です。
クライエントは、パーソナリティに問題を抱えていなくて、誰しもが直面する可能性がある問題に直面しているのだという前提で考えてみます。すると、必ずしもパーソナリティを変化させなくてはいけないとはいえないとは思えませんでしょうか。
パーソナリティを変化させなくても、クライエントが直面している問題を克服し、前に進んでいくことができれば、キャリアカウンセリングの目的は達成されたと考えられるのではないかと僕は思います。
「人格変容」の前提のひとつ、ロジャーズの理論
ロジャーズの理論は、「人格変容」を志向しています。クライエントが自己洞察を深めることにより、クライエントが人格変容を起こすという考え方です。
そして、「人格変容」が起これば、クライエントを取り巻く問題が好転するという考え方です。
ロジャーズは、カウンセリングの大家で、その教えは多くのカウンセラーが心に留めているものでしょう。(受容、共感、一致が代表例です)
しかし、注意しないといけないことがあると思います。それは、ロジャーズの考えは、心理療法とキャリアカウンセリングの境界を明確に区切っていないということです。
ロジャーズの言説は、キャリアカウンセリングの領域を超えた広範囲を対象とします。このことを理解していないとキャリアカウンセリングと心理療法の領域の境界線があいまいになり、キャリアカウンセリングにおいても「人格変容」を目指さないといけないと思い込んでしまうのではないかと思います。
キャリアカウンセリングの目的を「行動変容」とする
僕は、キャリアカウンセリングの目的は「行動変容」とするのが良いと考えています。その理由は、「わかりやすさ」です。クライエントにとっても、カウンセラーにとっても、その効果がわかりやすいです。
キャリアカウンセリングの終了後の具体的な行動をクライエントとカウンセラーの間で合意します。その後、その行動を行うことができれば、カウンセリングの効果はあったと評価できます。
これまでしなかったことをするようになる、これまでできなかったことをできるようになる、これがキャリアカウンセリングの効果として大事です。クライエント自身もキャリアカウンセリングを機会にして、自分が一歩前に進んだ自覚を持つことができるでしょう。
しかし、初めから「問題解決」を志向すべきではない
「行動変容」を目指しましょうとすると、どうしてもすぐにクライエントの直面する問題に意識がいってしまうかもしれません。
「クライアントの直面していることは何か」、「どうやったらそれを解決できるか」、「そのためにはクライアントはどういう行動を取れば良いか」といったようなことが、カウンセラーの頭の中に生じてきます。
これは、やっぱりいけません。その理由は、これでは本質的な問題にアプローチできない可能性が高いからです。
「問題」や「その解決の糸口」は、やはりクライエントが持っています。カウンセラーが決めつけたり、押し付けたりするものではありません。
つまり、初めから「問題解決」を志向するのは、やはり良くありません。
カーカフのヘルピング技法に学ぶカウンセリングの段階
カーカフのヘルピング技法では、クライエント(ヘルピー)の役割も設定されています。これがカーカフの説のユニークなところです。
カーカフのいうクライエント(ヘルピー)の役割を紹介します。
事前段階 参入
第1段階 自己探索
第2段階 自己理解
第3段階 行動化
(カーカフ、1992)
このようにカウンセリングの段階としては、クライエントの自己探索が起こり、自己理解が深まったあと、初めて問題解決に向けての行動化が起こるということです。
これは、カウンセリングに限らず、どのような対人支援の場面でも、基本となることだと思います。
キャリアカウンセリングは、「問題解決」を目指す
キャリアカウンセリングでは、問題解決を目指さずに、とにかくクライエントの自己探索を深めましょうという考え方があります。これは自己探索さえ起これば、自然と問題は解決に向かうはずだという前提に立っています。
僕は、どうしてもこの考え方が、無責任に思えます。これまでカウンセリングを行ってきた感覚で言えば、人によって自己探索のスピードも、行動化への向かい方も全然違います。
自己探索が深まると同時に次何をしようかと考えだす人もいれば、自己探索が深まってもどうしたら良いかわからないという人もいます。
やはり、自己探索が終わった後、じゃあどうしましょうかという行動化まで、カウンセラーは伴走しないといけないのではないでしょうか。
そういった意味でキャリアカウンセリングは、当然「問題解決」を目指さないといけません。しかし、いきなり「問題解決」をしようとしてはいけないとなります。
この記事を読んでいただき、少しでも「キャリアカウンセリング」に対する理解が深まっていただければ嬉しいです。記事の内容について、ご指摘やご意見ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
<参考文献>