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サニー・ハンセン博士のキャリアの理論の簡単な解説

本日は、サニー・ハンセン博士の理論の簡単な解説を書いていきます。まさに今の時代に合ったキャリアの捉え方といえる理論ですが、具体的な技法などに紐づかず、わかりにくい理論なのではないかと個人的に感じています。

まずは、サニーハンセン博士がどういう人で、どういう経緯でその理論を考えるのにつながっていったかという部分から見ていきましょう。

サニー・ハンセン博士の人となり

サニー・ハンセン博士は、ノルウェー系のアメリカ人として、田舎の裕福ではない家で生まれました。大学に入った時も、ほとんど貯金がない状態で入学して、そのあと奨学金をもらいながらなんとか学生生活を送っていったようです。

そんな学生時代に、インド系アメリカ人の友人とアメリカ南部の町を旅行で訪れました。そこで大きな衝撃を受けます。

いまでもアメリカ南部といえば、人種差別や性差別など差別感情が強いイメージがありますよね。サニー・ハンセン博士は、そこでそれらを目の当たりにし、衝撃を受けたようです。

もともと中学生のころから、社会正義や社会変革に強い興味を持ち、行動もしていたという正義感の強い女性でした。さらに自身も女性だったり、貧しかったり、ルーツが移民だったりで、差別を感じるような立場にいたこともあったでしょう。

こういう経験から、こうした差別をはじめとする社会課題に問題を持ち、それらを解決して社会全体の利益となるにはどうしたらよいかという視点を持って研究を進めていったようです。

そのあと、差別を生む原因となるステレオタイプな思い込みを除去するようなプログラムを生み出したり、差別などの社会問題を生むのは偏った小さな物の見方が原因の一つだと考え、大きくものを見ていこうという考えを反映させたキャリアの理論を展開したりしていきました。

サニー・ハンセン博士の代表的な業績

サニー・ハンセン博士の代表的な業績として、「BORN FREEプログラム」と「統合的ライフプランニング」があります。

「BORN FREEプログラム」とは、アメリカの多くの学校で導入されている教育プログラムです。これは、「私は女性だからこのようなことはできない」だったり、「私は男性だからこういう風にしないといけない」のようなジェンダーによる役割の思い込みや固定観念を取り除き、可能性や人生の選択肢を広げることを目的としたプログラムです。

教育者や親たちに影響するという間接的な介入に力点を置くという点でも特徴的なプログラムです。

「統合的ライフプランニング」とは、キャリア設計に対するアプローチです。キャリアコンサルタントをはじめとするキャリアの支援をする人たちに、キャリアの支援をするうえでの考慮すべき点を示唆するキャリアの理論です。

サニー・ハンセン博士のキャリアの捉え方

キャリアの理論を見ていくうえで、その理論の提唱者がキャリアというものをどのように捉えているかを抑えることは有用です。

サニー・ハンセン博士のキャリアの捉え方の特徴は、キャリアというものを非常に広く捉えているというところです。この広く捉えるということも大きく次の2つの意味で広く捉えています。

①個人のキャリアを仕事だけではなく、その人の人生における役割全体から考える

②個人のキャリアをその人1人の課題とせず、社会全体の中から考える

1つ目は、個人の中のキャリアについてです。仕事に関することだけではなく、その人の人生で担う役割の全てひっくるめてキャリアだと捉えています。これは、ドナルドスーパーのライフキャリアレインボーの考えに非常に影響を受けて考えられています。

2つ目は、キャリアを個人の中にとどまるものではなく、所属するコミュニティや社会全体に影響を及ぼすものという個人を超えて広がりを持つものと捉えています。

キャリアの選択をする際には、このような広い視点を持って行う必要があるという考え方がサニー・ハンセン博士の理論の基本的な考え方です。

このような考え方を基本としますので、その理論の中では以下のような言葉がよく登場します。「統合・包括・グローバル・多様性・全体・社会の利益」といった言葉です。こういった言葉がよく出てくるのも特徴的なところです。

キャリアを個人の人生の役割全体を含む包括的な概念と考える

サニー・ハンセン博士は、キャリアを個人の人生の役割全体を含む包括的な概念と考えました。この人生の役割とは、4つあり、労働(Labor)、学習(Learning)、余暇(Leisure)、愛(Love)、の4つのLを人生の役割としている。

そして、この人生の役割の組み合わせをキルトと例えて、キルトのように一人ひとりがオリジナルな人生の役割の組み合わせを持っているとしました。この組み合わせはいくらでも広がりがあり、その組み合わせは創り手にとって意味があるとしました。

例えば、バリバリこれまで働いていた女性が妊娠した例を考えてみましょう。妊娠という出来事は女性特有です、そして妊娠したまま働き続けていくというのは非常に難しいですし、母体の安全を考えると個人差はありますが、一定の休みを取るのは良いと考えられます。

産休を終えたあとは、職場復帰をどうするのか、勤務形態をどうするのか、家事や育児の分担をどうするのかといった問題があります。割り切って仕事をするというのは、非常に難しく、明らかに労働以外の人生の役割の影響を受けます。

このような人生の役割の全体をひっくるめた視点でキャリアを見ていくというのは、どれかを選んでどれかを捨てるといった考え方とは対極の考え方で、そのような極端なキャリアの選択をしないといけないと悩んでいる人には、非常に心強い考え方になるかもしれません。

そういった意味でも、サニー・ハンセン博士の理論は女性が強く共感するケースが多いように感じます。

統合的ライフプランニングの6つの重要課題

サニー・ハンセン博士は、「統合的ライフプランニング」に関する6つの重要課題を挙げております。これは何かというとキャリアコンサルタントとしてキャリア支援を行うときに意識する指針のようなものです。

サニー・ハンセン博士の理論は、抽象的で実践の場でどのように活かしていくかということが、時にわかりづらいです。そのようなときにこの理論の現場での活かし方を教えてくれるのが、この6つの重要課題です。

この6つの重要課題を以下に簡単に表現します。

①グローバルな視点で、社会の変化やニーズを捉えて、それをキャリアの選択で考慮に入れなさい。

②人生全体をどう生きていくかという視点で、キャリアの選択をおこないなさい。

③家族にとっての最大の利益となるように、キャリアの選択をおこないなさい。

④あらゆる種類の違いに対する感受性や受容性を高め、視点を多角的にしたうえで、キャリアの選択をおこないなさい。

⑤個々人の精神性(信念や信条のようなもので、宗教的なものではない)が人生全体や生きる目的に与える影響を考慮しなさい。

⑥変化に柔軟に対処できるように、さらには変化を担うぐらいの気持ちでキャリアを設計しなさい

このような意識を持って、キャリア支援をおこないなさいと言っているのが、サニー・ハンセン博士の理論です。これは、ポストモダン的な考え方がふんだんに含まれていて、私には強い納得感があります。

上記に挙げた6つの重要課題は、ざっくりいうとこんな感じですという程度のものなので、興味を持たれた方は、一度専門書をご覧になるのをおすすめいたします。

<参考文献>