ロジャーズ理論のキャリアカウンセリングの現場での活かし方とその問題点について
本日は、ロジャーズ理論をキャリアカウンセリングの現場にどのように活かしていくかについて考えていきます。
とはいっても、多くの方が当然、カール・ロジャーズの考え方に影響を受けているでしょうし、現場で活かしていると思います。ですので、活かし方より活かすうえでのその注意点の方が興味を持っていただけるかもしれません。
活かし方として5つのポイントを挙げたうえで、注意点として2つのポイントを挙げています。
ロジャーズ理論のカウンセリング現場への活かし方;①関係性を築く
ロジャーズ理論がもっとも効果が発揮されるのは、クライエントとの関係性を築く場面だと僕は思います。代表的な技法は、「受容」と「共感」ですね。
ロジャーズ理論は、クライエントとカウンセラーは対等な関係だと考えます。そして、クライエント自身に良くなろうとする力があるとカウンセラーは信用します。これが前提です。
だから、ロジャーズ理論においては、カウンセラーは真摯にクライエントが何をどのように感じているのかを知ろうと努め、その理解が間違っていないか丁寧に確認します。
大抵のクライエントは日常においてここまで丁寧に話を聴いてもらうことはあまりないでしょう。このような傾聴の行為により、カウンセラーとクライエントの関係性は築かれていきます。
ロジャーズ理論のカウンセリング現場への活かし方;②本質的な問題の追及
キャリアカウンセリングを受けに来るクライエントは、なんらかのキャリアに関する問題を抱えています。その問題を解決するのがキャリアコンサルタントに期待される役割でしょう。
ロジャーズ理論では、「問題」を知っているのはクライエントであると考えます。つまり、カウンセラーがクライエントの語る内容や仕草などから「問題」を洞察するのではなく、クライエントが自己探索を深めていくことを支援することにより、クライエントの中にある問題を一緒に探索していきます。
このような考え方により、クライエントを悩ましている問題を勝手に決めつけずに、常にそれを理解しようとする姿勢を保つことができるのではないかと考えられます。
ロジャーズ理論のカウンセリング現場への活かし方;③現象学的なものの見方
現象学とは、実際に起こっている客観的な世界ではなく、その世界をどのように受け取るかという認知の世界が僕たちの世界なんだと考える考え方です。
クライエントが抱えている問題は、実際に起こっている出来事ではなく、その出来事をどのようにクライエントが感じているかによって引き起こされると考えます。
この考え方は、僕は非常にしっくりきます。同じような経験をしても、それに対する反応は本当にひとそれぞれですものですよね。
現象学的なものの見方をもって、クライエントと接することで、より深くクライエントを理解できるのではないでしょうか。
ロジャーズ理論のカウンセリング現場への活かし方;④自己一致を目指すという考え方
ロジャーズ理論におけるカウンセリングの目的は、「自己不一致状態のクライエントを自己一致状態にする」というものです。(ちょっと乱暴かもしれません)
自己一致状態になれば問題が解決あるいは軽減すると考えて、それを目指すとしています。
ここでいう自己一致とは、「人間の内側に抱いているものと外側に表出しているものが一致している状態」のことです。
簡単にいうと感情と行動に矛盾がない状態です。もちろん環境とのかかわりにおいて、素直に表現できないといったこともあります。しかし、大切なことはそこに嘘がないということです。
僕は、この自己一致の状態を、「自分に嘘をつかない、自分をごまかさない状態」と理解しています。自己概念を正確に捉えている状態ともいえます。
このように目的を単純明快に設定できるというのも実用的なポイントだと思います。
ロジャーズ理論のカウンセリング現場への活かし方;⑤クライエントが自分で答えを出した実感が持てる
クライエントが自分自身で答えを見出したという実感が持てるということは非常に大切です。
人は、誰かに与えられた目的より、自分で見出した目的の方が、より確実に遂行していきます。
キャリアカウンセリングにおいても、そのセッションで明確になった目的をクライエントが自身で見出した目的だと腑に落ちていることが非常に重要だと思います。キャリアカウンセリングを受けて、確実にクライエントの行動が変容しないとカウンセリングの意味はないといっていいと僕は思います。
ロジャーズ理論の姿勢でクライエントと向き合っていくと、クライエントは自己探索を経て、自分で問題を明確化します。それを解決するための行動をクライエントと協働してしっかりと設定できれば、クライエントは実際に一歩を踏み出していくでしょう。
ロジャーズ理論を現場で活かす際の注意点;①クライエントの自己実現への傾向を前提としている
これのデメリットを極端な事例でいうと、「カウンセラーが非指示的であろうとして、カウンセリングを通じて何も生まれない」といったことです。
ロジャーズ理論は、クライエントがしっかり自己探索を行い、本来の自己概念に気づき、自己一致の状態になると、自然と問題は解決していくという考えです。
しかし、このような状態にたとえなったとしても、問題が解決しないことが結構あるのではないでしょうか。具体的な行動としてじゃあどうしたら良いかというところまですべてのクライエントが自分で見出していけるわけではありません。
カウンセラーが非指示的でなければならないというのを方便に、問題解決にコミットしない姿勢は良くはないと思います。
浅くロジャーズ理論に染まることで、問題解決を志向してはいけないと考え、カウンセリングの最終段階まで傾聴に徹するのは良くありません。教えることや示唆することに対して変な罪悪感を持ってしまうようになってしまうのは、ロジャーズ理論のデメリットでしょう。
ロジャーズ理論は、カウンセリングの導入時点などでは、非常に有効な考えだとは思います。しかし、徹頭徹尾ロジャーズ理論だけでキャリアカウンセリングを行っていくことで、クライエントの問題を解決するのはむずかしいのではないでしょうか。
ロジャーズ理論を現場で活かす際の注意点;②環境要因の軽視
ロジャーズ理論では、問題はクライエントの中にあると考えます。クライアントが変われば問題が解決すると考えます。
しかし、クライエントが身を置く環境に働きかけ改善した方が、簡単に効果的に問題を解決できることもあるでしょう。
ロジャーズ理論に傾倒してしまうことにより、環境要因が盲点になってしまうとそれは大きなデメリットです。
特に、キャリアコンサルタントとして組織開発や人的資源管理などに携わるときにおいては、環境要因が見えないなど絶対にあってはならないことですよね。
僕が言うのもおこがましいですが、ロジャーズ理論は非常に有効な理論だと思います。しかし、それゆえにロジャーズ理論に浅く染まって、問題を解決しようとしない人がいたら、そんな人はキャリアコンサルタントを名乗る資格はないと僕は思います。
社会により有用な存在としてキャリアコンサルタントを位置づけていくために、ロジャーズ理論を盾に「問題を解決しようとしない」、「教えようとしない」、「行動変容を促そうとしない」といったキャリアコンサルタントがいなくなればいいなぁと思います。
<参考文献>