コンサルタントとして、必要なあり方とは
エドガー・H・シャイン博士の「謙虚なコンサルティング」を読みました。エドガー・H・シャイン博士は、キャリアアンカーなどで著名な組織心理学者です。
コンサルタントとして、クライアントに対してのアプローチをする姿勢について、「ひとつのあり方」を提唱している本でした。それはシャイン博士のこれまでの50年以上の実践の中で見いだせれてきた考え方です。
そのあり方について、僕は非常に共感しました。企業や人を支援するすべての人にとって有意義な考え方だと思います。
今日は、その「あり方」とは何か。どうして僕が共感したのか。その「あり方」の有意義さについて書いていきたいと思います。
答えは、「クライアント」が持っている
僕たちキャリアコンサルタントを始め、コンサルタントといわれる仕事の目的は、何がしらかの問題を解決することです。
問題解決において、何を問題として設定するかというのはとても大事だということは以前の記事で書きました。
「個人的に打ち解けた関係」が、「本質的な問題」を引き出します。ですので、「本質的な問題」とは何かを引き出すために、コンサルタントとクライアントは「個人的に打ち解けた関係」を築く必要があります。
そしてエドガー・H・シャイン博士は、クライアントと「個人的に打ち解けた関係」を築くために、コンサルタントは「謙虚に好奇心を持って」クライアントと接しなさいと言っています。
「個人的に打ち解けた関係」の必要性は、「本質的な問題」を引き出すということだけではありません。
「個人的に打ち解けた関係」を築かずに失敗した事例
問題設定を行うことは、問題解決におけるスタートです。問題設定だけでなく問題解決を行うフローの全体で「個人的に打ち解けた関係」は必要になってきます。
僕自身、「個人的に打ち解けた関係」を築くことができずに失敗したことがあります。
以前、広告媒体の営業をしていた時の話です。大手のマンションディベロッパーの名古屋におけるマンションブランドのイメージ向上のお手伝いをしたことがありました。
クライアントの要望は、「マンションブランドのイメージ向上」でした。
どのようなイメージかというと、「高級感がある」と思って欲しいとのこと。
なぜ、高級感があると思って欲しいかというと、「今後高額な物件を供給していきたいから」とのことでした。
この取り組みに参加させていただいた当初は、上記のことを知っていれば問題ないように思えました。
僕に期待されていたことは、マーケティングとブランドイメージ調査でした。カスタマー同行とブランドイメージ調査の報告を行い、どの指標をどのようにモニタリングしていくかを設定したりしていました。
詳細はここでは書けませんが、この取り組みを行っているなかで、僕のなかである問題点が明確になってきました。それは、分業型の組織ということでした。
ブランドイメージは、顧客とのコミュニケーションの積み重ねにより作りあげられます。広告もその一つです。それ以外にも、販売やアフターフォローの方たちや、あるいは商品そのものと顧客がどう触れ合い、どのように感じるか。そこにブランドイメージが生じます。
しかし、僕がこの取り組みをした会社では、販売もアフターフォローも商品企画も広告も、分業でした。販売やアフターフォローや広告は別会社に委託していました。それを一人の担当者が横断的にみているという状況です。
それぞれの別会社の人間と話してみると、クライアントのブランドイメージの向上の取り組みを知らない、あるいはあまり興味がない様子でした。
そのような状態になってしまっており、顧客と一貫したコミュニケーションが取れていないことが問題であると気づきました。
四半期に1回のペースで行っていた「ブランド戦略会議」を僕はファシリテーションさせていただいていました。その席上で、「分業している組織構造に問題があるのではないか」ということを発言しました。
場が凍り付いたのを覚えています。名古屋支店という地方の1支店で会社全体のやり方を変えることができるわけがないという風にみなさん思っているようでした。僕は、問題提起をしてそこからじゃあどうするかということを考えていきたかったのですが、そのような方向には全く行きませんでした。
会議が終わった後、参加者の方から「余計なことを言わないでくれ」と個別に言われました。ショックでした。
そして僕自身も、それ以降は余計なことを言わず、ブランドイメージのモニタリングと広告計画の提案だけを行うようになりました。
そのあと、徐々に気づいていきました。支店長や部長や担当者や、クライアント企業の方々の考えていることはそれぞれ全く別の方向でした。ブランドイメージ向上を本当の意味で志向していたのは、支店長おひとりでした。
その支店長も広告によってブランドイメージを上げようと考えておられるようで、別のアプローチは望まれていないようでした。
それぞれの考えを共有せずに、参加者がそれぞれ表面的な目的を追いかける取り組みでした。
約1年ほどこの取り組みに参加させていただきました。良い経験をさせていただいきました。広告予算もたくさんいただき、売上成績という面でもありがたかったです。
しかし、ブランドイメージは上がらず、その後の高額物件の販売もご苦労されました。僕は、無力感を感じました。なんのための取り組みだったのかと今でも思います。
僕は「個人的に打ち解けた関係」を誰とも築けていませんでした。僕だけでなく、クライアント社内においてもそれぞれの人が、「個人的に打ち解けた関係」を築けているとは思えませんでした。
結局、それぞれの方が自分の仕事をしたいだけで、会議では自分の仕事が何かをはっきりとさせたかっただけだったのではないかと思います。
「個人的に打ち解けた関係」が参加者の相互に築けていて、お互いの考えをもっと理解できていたら、取り組みの過程で本質的な問題解決に向けて動いていったのではないかなと思います。
ちなみに、「分業している組織構造に問題があるのではないか」ということはクライアント社内の人たちはみなさん気づいていました。
しかし、大変だし面倒なことが起きそうなので、それに手をつけたくはないという気持ちが強かったようです。なのに、僕が会議でそれをさも重要そうに問題提起したので、場が白けたのでしょう。
「個人的に打ち解けた関係」を築くことによってもたらされるもの
エドガー・H・シャイン博士の「謙虚なコンサルティング」を読み進んでいくなかで、この時の失敗経験が鮮明に僕の中で思いだされました。
僕の上記の経験は、まさに本書に書いてある内容のまんまでした。だからこそ、このクライアントとコンサルタントが「個人的に打ち解けた関係」を築くことの大切さに、強く共感しました。
組織における問題解決を難しくする要因のひとつに、「組織の構成員のそれぞれの求めることが異なる」ということがあります。
先の例では、「ブランドイメージを向上させよう」と共通の旗印は掲げていましたが、それぞれの考えは全く異なっていました。
考えや思いがバラバラな状態で、チームとして機能するかといえばなかなか難しいですよね。そのような状態で解決できる問題などたかが知れているとも考えられます。
「個人的に打ち解けた関係」を築くことで、より「本質的な問題」にアプローチできるようになります。それだけでなく、問題解決に向かうチームのパフォーマンスが向上すると考えられます。
僕は、「組織の構成員のそれぞれがそれぞれの考えで、問題解決に向かう意義を見出せるようになる」という理由でそのように考えます。
個人に対する支援であれ、組織に対する支援であれ、まずは「個人的に打ち解けた関係」を志向するということは非常に有用な考え方でしょう。
そして、現代の多くの仕事は、広い意味で誰かを支援するという仕事だと思います。とすれば、多くの仕事でこの考え方は適用できるのではないかなと思います。
僕自身、この姿勢を忘れずに、相談者一人ひとりと向き合っていきたいと思います。