「褒める」ことが組織マネジメントにおいて逆効果になる場合について
本日は、「褒める」という行為の効果とどのような褒め方が効果的かを考えていきます。
「褒める」という行為について考える前に、まずはそれと深い関係のある自己肯定感という概念委ついて考えていきましょう。
自己肯定感とは、自分のことをどれくらい肯定的に捉えているかということです。つまり、自己に自信を持っているか、自分のことが好きかどうかということです。
日本人は、欧米人や中国人などと比較すると、この自己肯定感が低い傾向だという調査結果があります。(調査は青少年を対象にしたもの)
自己肯定感が高いとどのようなメリットがあると考えられるか
自己肯定感が高い人は、前向きで社交的などの良い特徴があると考えられています。つまり、ポジティブな人ですね。
自己肯定感が低い人は、犯罪率が高かったり、自殺の可能性が高かったり、メンタルヘルスの問題を抱えたりする人の割合が高くなるという話も聞きます。(本当にそうかは確認が取れていません)
そのような話を受けて、自己肯定感を高くしよう、自己肯定感は高いほうが良い、と言われている傾向があります。コーチングやマネジメントにおいても、対象者の自己肯定感を高めようとします。一般的なのが、「褒める」という行為です。
自己肯定感はただの結果
さて、ここで、自己肯定感が高い人が前向きで社交的なのか、前向きで社交的な人が自己肯定感が高いのかを考えてみます。
アメリカでの著名な学者達の様々な調査では、自己肯定感の高さはただの結果であるということが見えたようです。
つまり、前向きで社交的な人は自己肯定感が高いということですね。子どもの学力の場合、自己肯定感が高い子どもが成績が良いのではなく、成績の良い子どもが自己肯定感が高いという因果関係になります。
ただこれは、至極当たり前のことのように感じませんか?
しかし、組織におけるマネージメントにおいても、子どもに対する教育においても、ただ自己肯定感を高めるための「褒める」が多様されている気がします。
部下のやる気を引き出そうとして逆効果になった事例
営業としては非常に優秀な先輩でした。僕も一緒に働かせていただく中で、多くのことを勉強させていただきました。
その方が、チームのメンバーとのコミュニケーションのなかで、急に褒めだしたのです。日々の同僚とのコミュニケーションの中で、何かにつけて同僚を褒めだしたのです。
意図は、何だったのでしょうか?たぶんチームメンバーのモチベーションを高めることでしょうか。それともチームメンバーとの関係性を良くすることでしょうか。
目的はどうあれ、逆効果だったように思います。僕自身メンバーの一人として、いまいちだなぁと感じていただけではありません。他のメンバーのパフォーマンスもいっこうに向上しない期間が続きました。
このように褒めることによって自己肯定感を高めて、仕事のパフォーマンスを上げようとしてもうまくいかないことがあります。
さて、それでは一体何が良くなかったのでしょうか。具体的に考えていきましょう。
逆効果になる褒め方
僕は、その先輩から「安定感がある」と褒められました。これには、2つ問題があります。
1つ目は、褒めるポイントが的外れでした。そもそも僕は安定感がありません。気分屋でムラッ気があるタイプだと考えています。短所と考えている部分を褒められたので、僕は違和感を感じました。
しかし、この点は今回は問題ではありません。もっと問題なのは次の点です。
それは、素質を褒めたということです。様々な調査で証明されているのですが、褒めるときに効果的なのは素質ではなく、具体的な行動を対象としたものです。
素質を褒めると、根拠のない自信を持つようになります。これは成果を上げることを妨げます。一方で、具体的な行動を褒めると、その行動を再度行おうと行動が強化されます。これは成果を上げることにつながります。(※強化とは、その行動を取る頻度を高めるという意味で使用しています)
組織におけるマネジメントという観点で考えると、「自己肯定感を高めようとする」働きかけより、「成果につながる行動を強化する」働きかけが有効であるということになります。
むやみに部下を褒めるということが良いのではなく、成果につながる行動をとった時に、その行動をとったことに対して褒めて、その行動を強化するというのが有効ということになります。
つまり「褒める」ことの目的は、対象者の「自己肯定感を高める」ことではなく、対象者の「成果につながる行動を強化する」ということになります。
これを間違えると、対象者の根拠のない自信や満足感を生み出してしまい、逆効果になってしまう恐れがあります。
これからのマネジメントの場面で、「褒める」時にふとこの記事で読んだ内容を思い出してくださると嬉しいです。
<参考文献>